これが映画の台本だったら、すごいもんだ。想像を絶する展開!
「日本準決勝進出!」の駅売り新聞記事を見て、夢かと思った。
昨日、韓国に1対2で二度目の敗戦を喫して99%二次リーグ敗退
と思われた第一回WBC(国別対抗野球)に、奇跡が起こった。

なんとまあ、年俸170億円軍団の世界最強アメリカチームが、
メキシコにまさかの1対2で敗戦、日本の準決勝進出が決定した
というのだ。しかも、日本対アメリカ戦で問題となった審判が、
また塁審でメキシコのポール直撃ホームランを誤審して2塁打に
した、というオマケ付き。もう、驚きを通り越して呆れるばかり
……そればかりか、日本に敗れたメキシコは、この試合の前日、
二次リーグ突破が絶望的なことから皆でディズニーランドへ遊び
に行ってたらしい。そんなチームに341勝投手クレメンス先発
のアメリカが負けるなんて、誰が思っただろうか。

もうメチャクチャだ。何がなんだか、ワケがわからない。
昨日、日本が韓国に負け、自力で準決勝進出が可能になった米国
の監督は、「ありがとう韓国」とコメントしていたらしいが、
今度は王監督が「ありがとうメキシコ、こんなに嬉しかったのは
最近ない」とコメント。メキシコチームは国旗を掲げて、まるで
優勝したような韓国みたいに球場でウィニングランしたという。

勝利の女神は、尋常ではないドラマを用意しているらしい。
こりゃ、ドラマの台本では不可能。これだから野球はわからない。

そのツケで、野球大国アメリカの威信は粉々に砕け散った。
審判の問題も含め、次回の運営方法に真摯に取り組め、と
神様が言っているのだろう。いよいよ物語は最終章に入る。

というわけで、準決勝は再び日本対韓国。三度目の対決だ。
予選から6連勝と勢いづく韓国に、果たして日本は勝てるのか?

日本戦勝利の記者会見で韓国の監督が、記者団にこう話している。
「日本なら代表チームを3つも4つも作れるだろうが、韓国では
もう一つできるかどうか。実力的にはまだ日本の方が上」……
そんな格下と見られた韓国に、なぜ日本は勝てなかったのか。
もっと言えば、実力的には世界一であるはずのアメリカがなぜ
勝てなかったのか。理由は同じところにあるような気がする。

王監督は「相手の執念が上回った」とコメントしていたが、
「韓国にあって、日本にないものは?」と問われたイチローは、
「何でしょうねえ…(15秒の沈黙の後)、それがあると思えない」
と答えていた。現場のプレイヤーにはわからないことでも、
周囲から見ていて感じることが一つある。

上述の韓国代表監督のコメントにもあるように、韓国はできる限り
の最強チーム編成で万全を期して大会に臨み、国内の関心も非常に
高かった。事実、日本に勝って大統領からも祝電が入ったという。
逆に日本が勝ってたら、総理大臣から祝電が入ったか?…明らかに
答えはノーだ。アメリカも同様。そこまで国を挙げて取り組んでは
いない。日本に勝って、国旗をマウンドに掲げた韓国。日本では、
それを「マナーが悪い」という意見も、いくつか読んだ。確かに、
日本は韓国に勝っても、国旗をマウンドに掲げることはしなかった
だろう。でも、それは「マナーがいいから」じゃない。それだけ、
韓国は国を挙げて真剣に取り組んできた、という証なのだと見る。

もちろん、選手はどの国も真剣だったろう。しかし、周囲の関心が
イマイチな米国と日本が韓国に負けたのは当然だったとも言える。
ちゃんと神様は見ているんだよ!

ベスト4に入れば兵役免除というニンジンをブラ下げ、韓国議会で
その約束が果たされることも決定的になった、という影響があった
にせよ、それ以前に国を挙げて取り組んだ周囲の真剣さに、米国も
日本も遠く及ばなかったように思う。米国は特にそうだ。WBCの
試合は全国ネットで放送もされず、佳境のバスケット(NBA)を
中継をしていたというのだ。日本もまたサッカーのワールドカップ
と比べると、国民の最大関心事とまでは盛り上がっていなかった。
日本の野球代表チームは、いつもそうだが、そこそこベストだけど
完璧なドリームチームじゃない。米国代表チームも同様。例えば、
サッカー選手なら日本代表チームに入らなかっただけで落ち込む。

野球はどうか。ゴジラや井口や城島だけではない。代表に選ばれず
落ち込んだ選手なんて、果たしていたのだろうか。代表に選ばれた
人に、「ご苦労さん。じゃ、これからシーズンの本番だからね」と
いった同情的なコメントがせいぜいで、「オレが出てれば勝った、
なんでオレを出さないんだ!」なんて選手は一人もいない。特に
米国は、そこそこのベストな選手を選んで「負けるはずがない」と
過信していた。代表のプライドは個々のもので、国民的ではない。

この差は歴然だ。スタート時点から、もう選手のモチベーションが
全然違う。いくらイチローが発破をかけても、根底にはそうした国
を挙げての真剣さがない。イチローの怒りは、おそらく敗戦に向け
られたものだけではなかったようにも思える。その国の半端な応援
の状況に対して、という部分が多少なりとも含まれていると思う。

代表で出場している里崎智也捕手(ロッテ)が、「がけっぷちから
救われた感じ。野球界のため、WBCうんぬんではなく、一野球人
として負けるわけにはいかない」と、準決勝に向けてコメントした。
代表選手には酷だが、今度、負けたら本当の実力が問われる。
イチローの言葉ではないが、「今後30年間の日本の野球人気が
次の準決勝(韓国戦)で決まる」かもしれない。それぐらい大事な
試合だと認識してのコメントだろう。モチベーションが国内に向け
られると日本も強い。少し風向きが変わってきたような気もする。

おそらく、韓国首脳陣は「また日本とやるのか」「そろそろ負ける
かもしれない」と気を引き締めてくるだろうが、もし「また勝てる」と
韓国選手が過信していれば、チャンスだ。兵役免除も達成されて、
韓国選手のモチベーションは一段落しているはず。誤審の問題も、
日本での関心に一役買った、と前向きに解釈すれば、勝利の女神
の「奇跡の台本」は、日本を主人公にするかもしれない。少なくとも
優勝したら、小泉首相に祝電を打ってもらいたい。それが日本優勝
の絶対条件だ、と脚本家なら(勝利の女神も)考えるに違いない。

日本、世界一へ!!(WBC奇蹟のシナリオ)