南極物語
1983年公開当時、約59億円という配給収入記録を打ち立て、
『もののけ姫』がその記録を更新するまで十数年間にわたり
日本映画最大のヒット作の座をキープしてきた『南極物語』
(高倉健、渡瀬恒彦、夏目雅子、荻野目慶子他、出演)が、
ディズニーによってリメイクされ、3月18日に公開された。
全米では2月に公開され、既に90億円近く稼ぐヒットとなり、
評判も概していい。

オリジナル版は終戦後間もない昭和20年代の実話の映画化で、
リメイク版はそれを現代風かつディズニー風に焼き直している
が、基本的な展開はだいたい同じ。やむを得ない事情で南極に
「犬ぞり犬」たちが取り残され、極寒の夏(北半球でいえば、
冬のこと)をいかに生き抜き、ご主人様の人間と再会できたか
を描いた感動のドラマだ。が、細かい描写や人物設定等の印象
は随分と違う。

南極に犬が取り残されるまでの経緯は、ディズニー版の方が
うまく筋道立てた展開に練り直されていて、テンポがよく
説得力もある。それに対して、オリジナル版の方は、
あくまで実話に則しているせいか、そこに至るまで
のドラマ的設定がイマイチ弱い。

同じく高倉健主演で大ヒットした『八甲田山』もそうだったけど、
「ほとんど必然性の感じられない試練に意味なく放り込まれる」
といった感じだ。それはそうと、高倉健さんは『八甲田山』とか
『ぽっぽや』とか、寒々しい大地の雪の中に佇むイメージが
ホントよく似合う俳優さんだよネ。

オリジナル版は南極でロケしたせいか、本当に寒そうで暗い。
それに比べ、ディズニー版はカナダとスタジオで撮影されたせいか、
主演が『ワイルド・スピード』シリーズのポール・ウォーカー
というキャラのせいか、全体的に晴々とした青空の下、
日差しも明るく、ちっとも寒そうじゃない!!
……これなら猫でも生き残れそうだ(笑)

道理で、日本版ではタロとジロの2匹しか生き残れないが、
ディズニー版では、さすがに一匹殺すのが精一杯。
ほとんど生還して、ご主人様と感動の再会を果たす。
サバイバルのリアリティより、観客受けするドラマ性を
重視した監督は、『生きてこそ』や『コンゴ』を演出した
フランク・マーシャル。監督としてよりも、プロデューサー
としての実績の方が華々しい監督ならではの最大公約数的
演出が興行的にも好結果をもたらしたと言えるだろう。

その代わり、ディズニー版にリアルさを求めちゃいけない。
例えば、ヒョウアザラシの描写にも、その違いは顕れる。
ディズニー版では犬たちに襲い来る敵のような存在だが、
日本版では生きるための獲物としてアザラシを取り囲み、
食うか食われるかの非情な自然を描く映像になっている。

当然、ディズニー映画だから、それでいいのかも知れない。
が、現実には南極の6月前後は太陽がほとんど顔を出さない
(逆に南極の12月前後は白夜で太陽がほとんど沈まない……
ディズニー版は、そんな明白なリアリティも無視している)
闇の世界で、犬たちがオーロラに向かって吠える日本版は、
まるでドキュメンタリー映像を見ているかの如き、見事な
シーンもあった。そこにヴァンゲリスの例の有名な主題曲が
流れていたかどうかは忘れた(再会のシーンでは流れてた)
が、この音楽はオリジナル版のハイライトとも言うべき
素晴らしい出来だ。この音楽で、日本版は救われた。

それにしても、日本版はリアリティ重視でトーンが暗い。
そんな映画がなぜ、記録的な大ヒットになったかというと、
これは初めてフジテレビが映画製作事業に乗り出したという
経緯から、自局番組の中で昼といわず夜といわず毎日のように
『南極物語』のタロとジロをPRしまくっていたからだ。

当時、黒澤明監督はそんな状況に対して苦言を呈していた。
「最近は、動物と子供の話ばかりで、そんなのしか売れない。
日本映画は大人の人間の話を描かないと、いずれダメになる」
みたいなことをコメントしていた。実際、『南極物語』の興行
記録に次ぐ邦画のヒット作は、長らく『子猫物語』だった。


で、どっちが面白かったか?……動物と人間の愛情ドラマに、
リアリティのある実話の迫力を求めたいなら日本版、単純に
エンターテイメントとして楽しみたいならディズニー版、
といったところか。総合評価は、どちらも★★★



ポニーキャニオン
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……いい勝負かな。でも、
個人的にはディズニー版の方が好きだ。
やっぱり、映画は楽しい方がいい!(笑)