父親たちの星条旗
クリント・イーストウッドが日本で初の共同会見を行うと聞いて、
いても立ってもいられなくなった。何しろ、そんなことは今まで
アメリカでも例がなく、イーストウッドの共同会見といえば、
せいぜいアカデミー賞授賞式後の受賞者会見ぐらいで、まさに
異例中の異例。実際、イーストウッドが昨年、来日したのは
『ローハイド』(1959年~TVシリーズ)のキャンペーン以来
40年以上ぶりで、しかも宣伝目的ではなく硫黄島のロケハン
許可を石原都知事からもらうため。当然、二人の大物会見が
あっただけで、われわれ一般人はハナからカヤの外だった。

そんなスーパースターの共同記者会見が日本で初めて開かれる、
ってことが、どれだけ大変貴重なことか、わかってもらえるかな
……例えば、シュワちゃんや、トム・クルーズ、トム・ハンクス
だったら何度かナマで見たことがあるし、ミック・ジャガーや、
ポール・マッカートニーでもライブ会場で2~3回は見ている。
でも、ジョン・レノンはもう拝めない。そんな感覚なんだよね。

このチャンスを逃したら、一生この目でナマのイーストウッドを
見ることなどできないだろう……そんな思いを胸に一昨日、
イーストウッド様を拝みに行った。一眼レフを携えて……。

自分がイーストウッドのファンだって話は前にもしたけど、
 なんやかんや好きになって30年。ローリング・ストーンズの
ファン歴より、自分の中では長い。自分の父親より年上の老人
(1930年生まれの75歳)にいまだ憧れているなんて、おかしな
感じもするけど、そういう人はかなり多いみたいで、数百人は
入りそうな会見場は超満員。イーストウッドの登場とともに、
皆と一緒になって夢中でシャッターを切った。知らない人が
見たら(そんな人はいないと思うけど)、ただの温和そうな
オジイサンだ。かつての眼光の鋭さも今はなく、あまりの
フラッシュ攻勢にほとんど目を伏せて眩しそうにしている。

当然、カメラマンは目を瞑っているイーストウッドの写真ばかり
じゃ寝ぼけた老人が渡辺謙の隣に座っているようにしか見えない
ので、顔を上げて目を開けた瞬間にまたフラッシュの嵐となる。
可哀相に、イーストウッドは最初の挨拶をしている間、ほとんど
ずっと目を伏せていた。ゴメンね、オジイちゃん……。

実は会見の前日、イーストウッドは最新作『硫黄島からの手紙』
の撮影が終了したばかりだった。彼の隣には、渡辺謙、加瀬亮、
ジャニーズの二宮和也、中村獅童、井原剛志といった出演者たち
が並んでいる。彼らの挨拶の言葉を戸田奈津子さんが通訳して
イーストウッドに伝え、彼の表情が一瞬でも変わるたびに無数の
フラッシュが炊かれた。みんなイーストウッドの表情しか狙って
ないんだな……(笑)

質疑応答中は、フラッシュ撮影厳禁。携帯電話での撮影は禁止、
撮影写真のweb掲載も一切禁止、という厳しいお達しの後、
一人一問という条件で会見は粛々と行われた。二宮君の話は、
特に面白かった。最初はイーストウッドがどんな人かわからず
怖かったけど、「ピーナッツを食べてた、しかもボロボロと
口からこぼしながら。それを見て仲良くなれそうだと思った」
という話には場内大爆笑で、イーストウッドも笑っていた。
しかし、日本兵の扮装をしてロケ現場に立ち、自分が実際、
戦場にいるような感覚になってボーッとしていたら、
知らない間にフィルムが回って撮影が終わってしまい、
「恐ろしい!」と思った……(場内大爆笑)という感じで
撮影は一切リハーサルなしに、どんどん進んでいったらしい。
「セリフ合わせがあったのは、スタジオ撮影前の一回きり」
(井原剛志、談)で、毎ショット、オーディションを受けて
試されているみたいな気分だった、という。

リハーサルなし、撮り直しなしがイーストウッドの演出法だ。
これは俳優に全幅の信頼がないとできない。俳優出身だから、
俳優を信じている、と言うのは簡単だが、そういう監督は今、
他にいないだろう。往年の大巨匠ハワード・ホークス監督も
リハーサルなしを好む人だったと聞いているが、出演者たち
(ジョン・ウェインやロバート・ミッチャム)は監督が見てない
ところでセリフ合わせなどの練習をいつもしていたらしい。
イーストウッドの現場もそんなプロたちの仕事場だった
ということが出演者たちの話からよくわかる。

『硫黄島からの手紙』は今年12月に日米同時公開される。
第二次大戦の硫黄島の攻防を日米両国の側から二本の映画で
別々に描くという、前代未聞の意欲作だ。次回アカデミー賞の
有力候補となることは間違いないが、そんなことはどうでもいい。
イーストウッドがこんな企画を企てたこと自体が驚きだからだ。
米国側から描く『父親たちの星条旗』は10月20日、世界同時公開で、
日本側から描く『硫黄島からの手紙』へと連続公開される運びだ。

いずれもイーストウッド監督、『クラッシュ』のポール・ハギス
他が脚色し、製作はスティーヴン・スピルバーグ。配給は当然、
ドリームワークスになる。これは、イーストウッドが「原作の
映画化権を単独で購入する資金がなく、スピルバーグに頼んで
買ってもらった」からなのだが、製作会社はマルパソ・プロ
(イーストウッドが自ら監督をするために25年前に設立した
個人会社)だ。スピルバーグ(当時はドリームワークスがまだ
なくて、アンブリン・エンターテインメントだったかな)と
マルパソ・プロのコラボレーションは、『マディソン郡の橋』
(1995年)以来だろう。この時は、映画化権を所有していた
スピルバーグがイーストウッドに振った形だった。




ワーナー・ホーム・ビデオ
マディソン郡の橋
現在、数あるイーストウッド映画のDVDソフトのなかでも、
アメリカで二番目に売れているのが『マディソン郡の橋』だ。

では、イーストウッド映画で今、最も全米で売れているDVDは
何か?……これには驚いた。これを当てられたら、アナタは相当
な事情通ですね。ファンでも、想定外の作品にきっとビックリ!
しますよ、絶対……答えは次回(笑……ヒント=戦争映画です)



ジェイムズ ブラッドリー, ロン パワーズ, James Bradley, Ron Powers, 島田 三蔵
硫黄島の星条旗



James Bradley, Ron Powers, Michael French
Flags of Our Fathers: Heroes of Iwo Jima