映画を観おわって、パンフレットや宣伝文句を読んだ時、
「なんかストーリーや解説のニュアンスが観た印象と違うなあ~」
って思ったこと、結構ありませんか?
映画って、見た目のイメージが人によって違うから、
そこが原作の小説と映画の大きな違いにつながったりする。
例えば、原作の小説で「第一印象は最悪だった」と書いてあれば、
それ以外に解釈の余地はなく、誰もが「第一印象は最悪だった」
と、何の疑いもなくインプットされるけれど、映画の場合は大抵、
それは映像で表現されるため、(モノローグで「彼の第一印象は
最悪でした」などと規定される場合を除けば)観る人の素養や
印象によって解釈に幅ができる。
この場合、セリフは嘘つきなので、まったくアテにならない。
「彼って、最悪ね」と喋った若い女が、彼をじっと見つめている、
……そんな映像があったとしたら、おそらく半分以上の観客は、
「彼女は彼が気になっている」と解釈し、もっと言えば
「彼女は恋に落ちそうだ」と先読みしてしまうはず。
つまり、映画の観客は映像を信じて、セリフは信じない。
原作の小説は、そこに書いてあることを信じるしかない。
その大きな違いが、映画の印象や解釈を原作とは別のものにして
しまうんだけど、また、そこに監督(演出家)独自の解釈が入る
(ヘタな監督だと、そこに誤解を生じさせる)余地も生まれる。
実は『プライドと偏見』を観て、パンフレットに書いてある通り
「第一印象が最悪」だったとは見えなかった。さらに、宣伝文句
を読むと「愛してると認めるには、男のプライドは高すぎた。
愛してると応えるには、女の偏見が邪魔をする」と書いてある
が、そのコピーもまた観た印象のニュアンスとは全然違う。
男(ダーシー)は、かなり早い段階で愛してることを自認していた
し、シャイな性格で、それをうまく伝えることができなかっただけ
(そんなにプライドが高かったら、あんな簡単にはコクれない)で、
偏見もない。あるのは、自分の財産目当てに結婚しようとする相手
や、その家族に対する猜疑心だ。それは、妹がそんな男にダマされ、
傷つけられたのを目の当たりにしていたから、と説明されている。
原作がどうあれ、映画を観た印象をストーリーにすると、こうなる。
主人公の若い女は、金持ちのダーシーを最初から気にかけていたが、
金持ちのノーブルな態度に対する偏見から、あからさまにそういう
素振りを見せて財産目当てに結婚したがる女と見られるのは自分の
プライドが許さず、彼にコクられても姉と家族のプライドを傷つけ
られた経緯から本心は明かせなかった。しかし、次第に彼の誠実な
行動に触れて、自分の偏見に気づき、プライドを捨てて素直に彼を
愛している、と言えるようになり、めでたく結婚、ハッピーエンド
……そんな話に見えたんだけど、あなたの印象はどうでした?
つまり、『プライドと偏見』は主人公のものであり、それを捨てる
ことで幸せになった女の話、と監督が解釈したように思えてくる。
そうなると当初、『ファースト・インプレッション』(第一印象)
という仮題が付けられ、階級制度を越えて恋愛する自由な女性像を
描いたイギリス女流文学の最高峰と呼ばれる原作『自負と偏見』
(新潮社刊、ジェーン・オースティン著)とは、多少ニュアンスが
違う話になっているような気がしてならない。
J. オースティン, Jane Austen, 中野 好夫
自負と偏見
確かに200年も前の古典が原作だと、何度も映画化されていたり、
当然、そこには代表作と呼ばれるようなものがあったりして、
リメイク作品は「原作」より「旧作」との違いや影響を受けて
取り沙汰されるケースが多くなる。さらに、その後は、
より「原作」に忠実なものへの回帰があったり、
逆に、まったく新しい感覚の解釈が出てきたり……
これまでは、1940年代のモノクロ映画『高慢と偏見』(日本未公開)
のローレンス・オリヴィエ、グリア・ガースン主演バージョンが
代表作としてあった。より原作の詳細部分を再現した英国TV版
『高慢と偏見』(コリン・ファース主演)の人気も高い。
ビデオメーカー
高慢と偏見【字幕版】
アイ・ヴィー・シー
高慢と偏見
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
ブリジット・ジョーンズの日記
さらに、原作のエスプリを現代に置き換えて2001年に大ヒットした
『ブリジット・ジョーンズの日記』(こちらもコリン・ファースが
ダーシー役で、レニー・ゼルウィガーとヒュー・グラント共演)を
経て、果たして最新作『プライドと偏見』は、どんな感じなの?
というのが最大の注目点だったが、結果オーライの出来だった。
主演は英国生まれの若手売れっ子スター、キーラ・ナイトレイ。
その両親にドナルド・サザーランド、ブレンダ・ブレッシン、
長女に007シリーズ最近作でデビューしたロザムンド・パイク、
さらに007シリーズのM役で最近レギュラーのジュディ・デンチ。
注目のダーシー役は新顔で、映画主演2本目という舞台の若手実力派
マシュー・マクファディン。英国のいい役者が揃っている。
その一方、脚本は長編映画初挑戦となるデボラ・モガーで、
ジョー・ライト監督も、これが初の長編映画という未知数の存在。
しかも、この監督、「原作は読んだことがなかった」らしく、
単に渡された脚本を読んで感動し、映画化を決めたという。
結果オーライとは、そういう意味だ。だから、原作のディテールに
左右されず、英国ロケの美しい映像で綺麗にまとめることができた。
英米での評価は、驚くほど高い。ただ、その評価をそのまんま
日本人が受け取ると、「??」になりかねない。なにしろ、
米国のゴールデン・グローブ賞で『プライドと偏見』は、
「ドラマ部門」でなく、「ミュージカル、コメディ部門」で
各賞ノミネートされされているぐらい……(日本では高尚な
文芸ロマンス映画っていう感覚で受け取られているでしょ?)
要は、構えて見る必要のない現代感覚の時代ものコメディとして
楽しむべきなんだな。原作が書かれた当時の主題や主張とは異なる、
という前提で、古典の風情や映像を楽しんでしまえばいい。すると、
「アメリカ人は階級を超えた恋の話がホント好きなんだなぁ」とか、
「やっぱり美人と金持ちは、今も昔も得だなぁ」とか、
下世話な感覚で高尚なものを見た気分にさせてくれる。
そういう意味で、古典の映画化としては上出来だけど、
本格派指向の日本人には物足りない感じの映画になった
ということなんでしょう。総合評価★★★