プライドと偏見
映画を観おわって、パンフレットや宣伝文句を読んだ時、
「なんかストーリーや解説のニュアンスが観た印象と違うなあ~」
って思ったこと、結構ありませんか?

映画って、見た目のイメージが人によって違うから、
そこが原作の小説と映画の大きな違いにつながったりする。

例えば、原作の小説で「第一印象は最悪だった」と書いてあれば、
それ以外に解釈の余地はなく、誰もが「第一印象は最悪だった」
と、何の疑いもなくインプットされるけれど、映画の場合は大抵、
それは映像で表現されるため、(モノローグで「彼の第一印象は
最悪でした」などと規定される場合を除けば)観る人の素養や
印象によって解釈に幅ができる。

この場合、セリフは嘘つきなので、まったくアテにならない。
「彼って、最悪ね」と喋った若い女が、彼をじっと見つめている、
……そんな映像があったとしたら、おそらく半分以上の観客は、
「彼女は彼が気になっている」と解釈し、もっと言えば
「彼女は恋に落ちそうだ」と先読みしてしまうはず。

つまり、映画の観客は映像を信じて、セリフは信じない。
原作の小説は、そこに書いてあることを信じるしかない。

その大きな違いが、映画の印象や解釈を原作とは別のものにして
しまうんだけど、また、そこに監督(演出家)独自の解釈が入る
(ヘタな監督だと、そこに誤解を生じさせる)余地も生まれる。

実は『プライドと偏見』を観て、パンフレットに書いてある通り
「第一印象が最悪」だったとは見えなかった。さらに、宣伝文句
を読むと「愛してると認めるには、男のプライドは高すぎた。
愛してると応えるには、女の偏見が邪魔をする」と書いてある
が、そのコピーもまた観た印象のニュアンスとは全然違う。

男(ダーシー)は、かなり早い段階で愛してることを自認していた
し、シャイな性格で、それをうまく伝えることができなかっただけ
(そんなにプライドが高かったら、あんな簡単にはコクれない)で、
偏見もない。あるのは、自分の財産目当てに結婚しようとする相手
や、その家族に対する猜疑心だ。それは、妹がそんな男にダマされ、
傷つけられたのを目の当たりにしていたから、と説明されている。

原作がどうあれ、映画を観た印象をストーリーにすると、こうなる。

主人公の若い女は、金持ちのダーシーを最初から気にかけていたが、
金持ちのノーブルな態度に対する偏見から、あからさまにそういう
素振りを見せて財産目当てに結婚したがる女と見られるのは自分の
プライドが許さず、彼にコクられても姉と家族のプライドを傷つけ
られた経緯から本心は明かせなかった。しかし、次第に彼の誠実な
行動に触れて、自分の偏見に気づき、プライドを捨てて素直に彼を
愛している、と言えるようになり、めでたく結婚、ハッピーエンド
……そんな話に見えたんだけど、あなたの印象はどうでした?

つまり、『プライドと偏見』は主人公のものであり、それを捨てる
ことで幸せになった女の話、と監督が解釈したように思えてくる。

そうなると当初、『ファースト・インプレッション』(第一印象)
という仮題が付けられ、階級制度を越えて恋愛する自由な女性像を
描いたイギリス女流文学の最高峰と呼ばれる原作『自負と偏見』
(新潮社刊、ジェーン・オースティン著)とは、多少ニュアンスが
違う話になっているような気がしてならない。


J. オースティン, Jane Austen, 中野 好夫
自負と偏見
確かに200年も前の古典が原作だと、何度も映画化されていたり、
当然、そこには代表作と呼ばれるようなものがあったりして、
リメイク作品は「原作」より「旧作」との違いや影響を受けて
取り沙汰されるケースが多くなる。さらに、その後は、
より「原作」に忠実なものへの回帰があったり、
逆に、まったく新しい感覚の解釈が出てきたり……

これまでは、1940年代のモノクロ映画『高慢と偏見』(日本未公開)
のローレンス・オリヴィエ、グリア・ガースン主演バージョンが
代表作としてあった。より原作の詳細部分を再現した英国TV版
『高慢と偏見』(コリン・ファース主演)の人気も高い。



ビデオメーカー
高慢と偏見【字幕版】



アイ・ヴィー・シー
高慢と偏見



ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
ブリジット・ジョーンズの日記

さらに、原作のエスプリを現代に置き換えて2001年に大ヒットした
『ブリジット・ジョーンズの日記』(こちらもコリン・ファースが
ダーシー役で、レニー・ゼルウィガーとヒュー・グラント共演)を
経て、果たして最新作『プライドと偏見』は、どんな感じなの?
というのが最大の注目点だったが、結果オーライの出来だった。

主演は英国生まれの若手売れっ子スター、キーラ・ナイトレイ
その両親にドナルド・サザーランド、ブレンダ・ブレッシン、
長女に007シリーズ最近作でデビューしたロザムンド・パイク、
さらに007シリーズのM役で最近レギュラーのジュディ・デンチ。
注目のダーシー役は新顔で、映画主演2本目という舞台の若手実力派
マシュー・マクファディン。英国のいい役者が揃っている。

その一方、脚本は長編映画初挑戦となるデボラ・モガーで、
ジョー・ライト監督も、これが初の長編映画という未知数の存在。
しかも、この監督、「原作は読んだことがなかった」らしく、
単に渡された脚本を読んで感動し、映画化を決めたという。
結果オーライとは、そういう意味だ。だから、原作のディテールに
左右されず、英国ロケの美しい映像で綺麗にまとめることができた。
英米での評価は、驚くほど高い。ただ、その評価をそのまんま
日本人が受け取ると、「??」になりかねない。なにしろ、
米国のゴールデン・グローブ賞で『プライドと偏見』は、
「ドラマ部門」でなく、「ミュージカル、コメディ部門」で
各賞ノミネートされされているぐらい……(日本では高尚な
文芸ロマンス映画っていう感覚で受け取られているでしょ?)

要は、構えて見る必要のない現代感覚の時代ものコメディとして
楽しむべきなんだな。原作が書かれた当時の主題や主張とは異なる、
という前提で、古典の風情や映像を楽しんでしまえばいい。すると、
「アメリカ人は階級を超えた恋の話がホント好きなんだなぁ」とか、
「やっぱり美人と金持ちは、今も昔も得だなぁ」とか、
下世話な感覚で高尚なものを見た気分にさせてくれる。

そういう意味で、古典の映画化としては上出来だけど、
本格派指向の日本人には物足りない感じの映画になった
ということなんでしょう。総合評価★★★

vanity fair



えっ、まさか!……というか、やっぱり!……というか、
感想は人それぞれとは思いますが、私には衝撃的でした。

『ロスト・イン・トランスレーション』『真珠の耳飾りの少女』
『アイランド』『ゴースト・ワールド』『理想の女』
のスカーレット・ヨハンソン、

『パイレーツ・オブ・カリビアン』『キング・アーサー』
ラブ・アクチュアリー』『ドミノ』『プライドと偏見
のキーラ・ナイトレイ。

共にオスカー候補にもなっている若手実力派の売れっ子
ハリウッド・スター最右翼の二人が、なんと一緒に……

一糸まとわぬ姿で、 Vanity Fair誌に載っているではないか!


確かに、二人はキレイだ。肉感的なスカーレット・ヨハンソンは、
結構ビッチな噂もあるが、次回作でオールヌードのセックスシーン
があると噂されるキーラ・ナイトレイまで、とは……
(実在の賞金稼ぎを演じた『ドミノ』ではアウトドア・セックスの
シーンがあるらしいけど、まだ見てない…)

だって、彼女は「貧乳」を気にしているようなコメントを
これまでに何度も残しているぐらいで……

でも、写真を見ると、そんなに「貧乳」でもない!
(なぜか、ちょっと安心……笑)

少なくとも、メグ・ライアンよりは立派な乳に見える……
(メグ・ライアンは現在、豊胸手術をして大きくなってるけど)

やっぱり女優は、みんなキレイな自分を見せたいんだねえ…。

というわけで、今回は下世話なネタでしたが、
このフルヌード競演の撮影現場(昨年11月11日)のナマの二人を
捉えた約4分間のビデオが下記のサイトで見られるので、
興味のある方は勝手にどうぞ!

http://www.vanityfair.com/videos/060208feou_keira_video




ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
ドミノ



ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
キング・アーサー ディレクターズ・カット版



メディアファクトリー
理想の女(ひと)



ワーナー・ホーム・ビデオ
アイランド(UMD Video)

crash

映画界最大の祭典、アカデミー賞候補作が1月末に発表されました!
主要部門(脚色賞までの8部門)は前回、予想した通り。
今回はその続き。予想本命は◎、応援しているのは△で表示
しましたが、主要部門以外の予想は、見てない映画が多いなか、
ほとんど当て勘の世界になるので参考にならんでしょう(笑)。
そういうわけで、主要部門以外は個人的に予想はしますが、
表示はしません。以下が候補作の一覧です。
結果発表は来月5日。楽しみですネ!

■撮影賞
ウォーリー・フィスター「バットマン・ビギンズ
ロドリゴ・プリエト「ブロークバック・マウンテン」
ロバート・エルスウィット 「グッドナイト&グッドラック」
ディオン・ビーブ 「SAYURI
エマニュエル・ルベッキ 「ニュー・ワールド」

■編集賞
マイク・ヒル&ダン・ハンリー「シンデレラマン
クレア・シンプソン「ナイロビの蜂(仮題)」
ヒューズ・ウィンボーン「クラッシュ
マイケル・カーン「ミュンヘン」
マイケル・マッカスカー「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」

■美術賞
ジム・ビゼル「グッドナイト&グッドラック」
グラント・メイジャー 「キング・コング」
ジョン・マイヤー 「SAYURI
サラ・グリーンウッド「プライドと偏見
スチュワート・クレイグ「ハリーポッターと炎のゴブレット

■衣装デザイン賞
ガブリエラ・フェスクッチ「チャーリーとチョコレート工場
コリーン・アトウッド 「SAYURI
サンディ・パウエル 「ミセス・ヘンダーソン・プレゼンツ(原題)」
ジャクリーヌ・デュラン「プライドと偏見
アリアンヌ・フィリップス 「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」

■メイクアップ賞
「ナルニア国物語 第1章:ライオンと魔女」
シンデレラマン
スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐

■作曲賞
「ブロークバック・マウンテン」
「ナイロビの蜂(仮題)」
SAYURI
「ミュンヘン」
プライドと偏見

■歌曲賞
クラッシュ」“In the Deep”
「ハッスル&フロー(原題)」“It's Hard Out Here for a Pimp”
「トランスアメリカ(原題)」“Travelin' Thru”

■録音賞
「ナルニア国物語 第1章:ライオンと魔女」
「キング・コング」
SAYURI
「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」
宇宙戦争

■音響編集賞
「キング・コング」
SAYURI
宇宙戦争

■視覚効果賞
「ナルニア国物語 第1章:ライオンと魔女」
「キング・コング」
宇宙戦争

■長編アニメ映画賞
「ハウルの動く城」
ティム・バートンのコープスブライド
「ウォレスとグルミット/野菜畑で大ピンチ!」

■外国語映画賞
「ドント・テル(原題)」 (イタリア)
「戦場のアリア」(フランス)
「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々」(ドイツ)
「パラダイス・ナウ(仮題)」(パレスチナ)
「ツォツィ(原題)」(南アフリカ)

■長編ドキュメンタリー賞
「ダーウィンの悪夢」
「エンロン(原題)」
「皇帝ペンギン」
「MURDER BALL」
「ストリート・ファイト(原題)」

■短篇ドキュメンタリー賞
「ザ・デス・オブ・ケヴィン・カーター(原題)」
「ゴッド・スリープス・イン・ルワンダ(原題)」
「ザ・マッシュルーム・クラブ(原題)」
「ア・ノート・オブ・トライアンフ(原題)」

■短篇アニメ映画賞
「バジャード(原題)」
「ザ・ムーン&ザ・サン(原題)」
「ジャスパー・モレロの冒険」
「9(原題)」
「ワンマンバンド」

■短篇実写映画賞
「ザ・ランナウェイ(原題)」
「キャッシュバック(原題)」
「The Last Farm」
「アワー・タイム・イズ・アップ(原題)」
「シックス・シューター(原題)」

brokeback m

「アカデミー賞予想は、作品を見てなくてもできる!」
というのが私の持論。例年、候補発表前に公開される作品が
少ないので、全部見た上で予想するのは基本的に不可能なのだが、
業界の思惑が絡んでくることと、それ以前に発表される米国の各賞
受賞結果と併せて予想すれば、そんなに難しいことじゃない。
自分も毎年、主要部門は確実に半分以上、当てているヨ!

それで去年の3月に、「世界一早い! 第78回アカデミー賞詳報
を大胆にも冗談で敢行したが、やっぱりこれは無理だった(笑)!
ノミネートもされていない人を受賞者にしていたからね(爆)!

今回は、『ブロークバック・マウンテン』の最多8部門ノミネートをはじめ、
作品賞候補は一本を除き全てインディペンデンス系の小規模作品で、
見たのは『クラッシュ』のみ。主要7部門の中でも見ている作品は4本
(『スタンドアップ』『プライドと偏見』『シンデレラマン』)のみなので、
あくまで作品の出来と受賞予想はまったく別物という点だけ、ご理解を。
おそらく昨年12月、同性の結婚が英国で法制化された、
という世界的な流れに乗って、『ブロークバック・マウンテン』が
今回の賞の主役になることは間違いない、と予想します!

では、来月5日発表の第78回アカデミー賞候補とオスカー予想一覧
(今回は主要部門のみ、◎が本命予想、△が個人的応援=当然、
見ている映画が中心になりますが……)です。

■ 作品賞

◎ブロークバック・マウンテン
 グッドナイト&グッドラック
クラッシュ  ※メチャメチャ良かったよ~!
 カポーティ
 ミュンヘン

■ 監督賞

◎アン・リー(ブロークバック・マウンテン)
 ジョージ・クルーニー(グッドナイト&グッドラック)
 スティーブン・スピルバーグ(ミュンヘン)
△ポール・ハギス(クラッシュ)  ※これが監督デビュー作です!
 ベネット・ミラー(カポーティ)

■ 主演男優賞

◎フィリップ・シーモア・ホフマン (カポーティ)
△ヒース・レジャー (ブロークバック・マウンテン)
 ホアキン・フェニックス (ウォーク・ザ・ライン/君につづく道)
 デヴィッド・ストラザーン (グッドナイト&グッドラック)
 テレンス・ハワード (Hustle & Flow)

※ヒース・レジャーは『ロック・ユー』の前から大ファンなので……。

■ 主演女優賞

△リース・ウィザースプーン (ウォーク・ザ・ライン/君につづく道)
◎フェリシティ・ハフマン (Transamerica)
 キーラ・ナイトレイプライドと偏見
 ジュディ・デンチ (Mrs .Henderson Presents)
 シャーリーズ・セロン (スタンドアップ) ※無理かな~…

■ 助演男優賞

◎ポール・ジアマッティ (シンデレラマン
△マット・ディロン (クラッシュ) ※良かったよ~!
 ジョージ・クルーニー (シリアナ)
 ジェイク・ギレンホール (ブロークバック・マウンテン)
 ウィリアム・ハート(ヒストリー・オブ・バイオレンス)

■ 助演女優賞

△ミシェル・ウィリアムス (ブロークバック・マウンテン)
 エイミー・アダムス (Junebug)
◎レイチェル・ワイズ (The Constant Gardener)
 キャスリーン・キーナー (カポーティ)
 フランシス・マクドーマンド (スタンドアップ

※応援しているのは、ヒース・レジャーと結婚したから。W受賞で話題を狙う
ってことも? レイチェル・ワイズは『コンスタンティン』が可愛かったね。

■ 脚本賞

◎△ポール・ハギス、ボビー・モレスコ (クラッシュ
 ジョージ・クルーニー、グラント・ヘスロフ (グッドナイト&グッドラック)
 ノア・ボーンバッハ (The Squid and the Whale)
 ウディ・アレン (Match Point)
 スティーヴン・ギャガン(シリアナ)

■ 脚色賞

◎ラリー・マクマートリー、ダイアナ・オサナ (ブロークバック・マウンテン)
 ダン・フッターマン (カポーティ)
 ジェフリー・ケイン (The Constant Gardener)
トニー・クシュナー、エリック・ロス(ミュンヘン)
 ジョシュ・オルソン (ヒストリー・オブ・バイオレンス)

※予想できるのは主要7部門まで、これはわかりません!……が、
 無理やり予想すれば『ブロークバック・マウンテン』かな?

(以下、続きは次回!)

フェーンチャン
普段は忘れてしまっている子供の頃の「後悔の記憶」が、
ふとした瞬間に蘇って、いたたまれなくなることって、ない?
叫び出したくなったりとか……ない? ない人は幸せだよね……
私は今でもよくある。自分の子供を怒鳴ってしまった時とか。

そういう後悔の記憶が蘇る瞬間を経験したことのある人なら、
『フェーンチャン ぼくの恋人』は絶対、好きになる映画!
間違いなく、これまでに見たタイ映画の中で最も好きな作品!
……実際、2005年日本公開映画の「お気に入りベスト5」に、
この映画を入れているぐらい……だけど、ここで一つお断りして
おきたいのは、これまでタイ映画は10本も見てない、ってこと。

もともと日本での公開本数が少ない、ということもあるけれど、
日本で公開されるタイ映画の大半は「キワモノ」的アクションや
オカマものなど、エキセントリックなものばかりで、ごく普通の
タイ映画に触れる機会があまりなかったから、かもしれない。

もちろん、タイ映画は「キワモノ」ばかりというわけじゃなく、
事実タイでは日本以上に数多くの映画が製作されているらしい。
ようやく、ここへきて日本でも「キワモノ」でないにも関わらず、
2003年にタイで記録的なヒットを飛ばした、ごく普通の現代劇
『フェーンチャン ぼくの恋人』が、2005年3月に公開された。

去年の3月といえば、このブログを始めて、まだ間もない頃。
これまで紹介してこなかったのは、あまりに個人的な感情に
支配されそうな話になってしまいそうだったから……。

ごく簡単にストーリー設定を紹介すると、舞台は現代のタイで、
都会で働いている青年ジアップのもとに、幼なじみで初恋の相手
(と言っていいでしょう…)ノイナーから結婚披露宴の招待状が
届き、実家に帰って来た彼は十数年前の少年の頃を振り返る……

という話なんだけど、これを「よくある初恋の思い出の話」と、
一言で片付けてしまうようなダメなライターは抹殺すべし!(笑)
……この映画で最も感じ入ったのは、それ以上の違う部分……
日本の戦後と共通するタイの80年代の懐かしい風情も、自分には
装飾的な部分に過ぎない。琴線に触れた本質じゃあない。

主人公ジアップの実家は大衆理髪店。その隣家にも芸術家肌の店主
が営む理髪店がある。ライバル店主同志は趣味の違いから、まるで
口も聞かない間柄。その隣家の同い年の娘がノイナーで、子供同志
は仲良し。学校に行く時は必ず寝坊好けのジアップを迎えにやって
来る。犬猿の仲の親も相手の子供に対しては、お互い好意的という
ところがいい。そんなわけで、いつもノイナーたちとママゴト遊び
に興じているジアップだが、そのことで「女の子としか遊ばない」
と学校の悪ガキたちにイジメられ、サッカーにも入れてもらえず、
彼らに認められようと一念発起。悪ガキたちの言いなりになって、
ついに幼なじみのノイナーを傷つけてしまう。

このノイナー役のフォーカス・ジラクンが、もう実にカワイくて、
見ているだけで泣けてくる……(笑)。萌え殺されること必定!
実際、タイ国民は彼女に萌え殺されたらしく、その後TVドラマに
主演するなどで大金を稼いだ彼女は、小学生の分際で両親に一軒家
をプレゼントしている。実際、彼女に会ってみたけど、まだ本当に
小ちゃくて、ジアップ役の男の子も長髪になってて女の子みたいな
子供で、とても映画の主役が務まるとは思えない(笑)。つまり、
それだけ、この映画にはマジックがあるってことなんだなぁ…。

ノイナーを傷つけることで、悪ガキたちに認めてもらったジアップ
は有頂天、もうノイナーとは遊ばない。ノイナーは一人寂しく涙に
暮れる……そこへ引っ越しの話。ノイナーはジアップに告げるが、
ジアップは興味なさげにふるまう。もちろん、本心じゃないけど、
「なんで優しくしてやらないんだ!…」と、もう涙が止まらない。
子供の頃からの、さまざまな後悔の念が一気に噴き出した……。

幼い時によく遊んでいた従兄弟の女の子を、十代の時に泣かせて
しまったことがある。彼女を無視して、彼女の弟とばかり男同志
で遊んでいた時だ。自分はなんと、それを見て見ぬフリして、
声もかけなかった……一生忘れられない涙だ。

10代の男というのは、必要以上に自分をタフでクールに見せよう
とする傾向にある。自分がそうだった。小学生の頃は一緒によく
遊んでいた友達に対し、高校生の時になんと冷たい態度で接して
いたことか……ある女友達は高校に馴染めず、机で泣いてたこと
もあったのに、優しい言葉一つかけてやらなかった。なんで?…
彼女はその後、未婚のまま黒人の子供を出産した、という話を親
から聞いた。その頃はまったく会ってなかった。最近は、実家に
帰っても当時の友達に会うことはない。当然の報いなんだろう。

男の友達に対しても、同じように後悔していることが山ほどある。
過去の恋人や、自分を誘ってくれようとした女の子に対しても…。
いずれも、「なんで優しくしてやらなかったのか!」という後悔
……それが自分の子供を怒鳴ってしまった時などに襲ってくる。
そんな日は早く家に帰りたくて、仕事も手につかない。
映画ではやり直しが効くけど、現実には行動するしかない。
だから子供には、あらん限りの態度で愛していることを伝えたい。

ちなみに、『フェーンチャン』とは「ぼくの恋人」という意味。まんまだ。
原作は、この映画の監督の一人、ウィッタヤー・トーンユーンの
大学のインターネット掲示板への書き込み。
それを映画学校の仲間7人が「あーでもない、こーでもない」と
書き直し、そのうちの6人で共同監督し、タイの映画会社3社が
共同製作した異例ずくめの映画だ。総合評価★★★★★!

本当は、2005年のお気に入り映画1位にしても良かったんだけど、
あまりに個人的な感情で平静に判断できないと考え、5位にした。
だから、4位に入れた『シンデレラマン』の総合評価が★★★★
なのに、順位は『フェーンチャン』の方が下……そういうことも
あるってことで、何卒ご了承を……(笑)。


ジェネオン エンタテインメント
フェーンチャン ぼくの恋人
7p
2005年暮れより、2本のタイ映画が全国順次公開されている。
いずれもアクション映画で、実際テイストは随分違うのだが、
邦題が似通っていて(一方の原題は邦題とまったく違う)、
製作スタッフも似たりよったりで、ややこしいので、
まず最初に整理しておこう。

タイでの公開順で言うと、日本で最も遅れて公開された
『バトル7』(原題:ヘブンズ・セブン)が、2002年で最初。
同作のプロデューサー、プラッチャー・ピンゲーオが監督した
『マッハ!』(原題:ムエタイ・ウォリアー)が、2003年公開
(日本では2004年に公開されている)で、同監督が再び製作し、
『マッハ!』のアクション監督パンナー・リットグライが監督した
『七人のマッハ!!!!!!!』(原題:ボーン・トゥ・ファイト)が
最近の2004年公開、という順番になっている。

(以下、面倒なのでタイトルの「!」マークは省略する…!)

今回は、ちょっと怒っている(ホントにちょっとだけです、笑)。

そもそもCGなし、ワイヤーなし、スタントマンなし、がウリの
アクション映画『マッハ!』は、一部評論家の絶賛でブロガーの
「年間ベスト10」にも入るぐらい評判だったらしいのだが、まず
それが信じられない。実は、この『マッハ!』は見てないので、
あんまりどうのこうのと言える立場ではないんだけれど、どうも
『七人のマッハ』が『マッハ!』をさらにパワーアップした感じ
のアクション映画であるという宣伝文句や、その『七人のマッハ』
評を見るにつけ、『マッハ!』がそれと同類のどうでもいい映画
のような気がしてならない。

基本的に、素晴らしいアクション映画というのは、物語における
必然性や緊迫感の中で、初めてスタントシーンも生きてくる。
どんなに凄いスタントシーンをつなげたところで、無味乾燥な
物語の中では、ちっとも盛り上がらないし、退屈極まりない。
『七人のマッハ』は、その典型。そんなのが見たい人はスタント
のドキュメンタリーを見ればいい。それで事足りる。そういう
アクション映画は評価したくない。決死のスタントには拍手を
贈りたいが、それをつなげただけのドキュメンタリーにした方が
まだマシ、みたいな物語を延々見せられるのは拷問に近い。

こんな映画が、そんなにいいのか???????
まったく信じられない。我が目を疑う。

実際、『七人のマッハ』の最大の見どころは、エンドロールに
流れる生身のスタント失敗シーンの数々だ。NGシーンの方が
迫力があって見応えがあるということは、そんなドキュメント
部分だけで充分、あとは寝ていても、まったく損しないレベル
ということだ。そこまで言える映画は滅多にない。総合評価★、
っていうか、眠気との戦いがメインになって判定不能だ。

ところが、いくつかのブログを見る限り、『七人のマッハ』は
「絶賛」までいかないにしても、ヘンに評価されている。前作
の『マッハ!』よりいい、とも悪い、とも書いてない。きちん
と評されているとは到底思えない。不思議でしょうがない。
これはオカしい。さらに、この邦題もオカしい。

この映画は、スタントシーンを寄せ集めたアクション映画なので、
俳優を使わず、ムエタイ、テコンドー、体操、サッカー等のプロを
主役に配して撮影されただけあって、物語や演技はどうでもいい、
ということらしいのだが、アホでも主役のプロが七人なのかどうか
数えればわかるものを、あえて「七人」(実際はもっと多い!)と
しているところに、この映画のC級以下のいい加減な作りが表れて
いると言っていい。ただし、映画のノリ自体はいい加減ではなく、
演出スタイルは結構マジだから、余計にタチが悪い。

それに比べれば、『バトル7』の方がオープニングの地雷シーン
からして相当いい加減なノリで面白い。オリジナルは1950年代に
製作された国民的物語らしく、タイに駐留する米軍憎しの感情が、
マカロニ・ウェスタンばりの娯楽アクション映画(タイ人たちは
アクション西部劇が好きなのか、そういうタイ映画が少なくない)
に結実している。何より、7人のキャラクターがきちんと立って
いる点だけでも、『セブンソード』などより遙かによくできている。

『七人のマッハ』は根本的に七人じゃないので、キャラクターの
描き分け以前の問題。話にならない。『セブンソード』の方が
人数を数え間違えてないだけ、まだマシ…(なんと低レベルな!)

もちろん、単純明快な米軍=悪者の構図やヘタウマな特撮シーンは、
無邪気なB級映画のノリなので、真剣に見るほどのアクション映画
じゃないが、米軍をやっつけてタイ国民の溜飲を下げ、続編も製作
されるほど愛され大ヒットしたというのは、わからないでもない。
(……総合評価★★★)

でも、二挺拳銃の主人公のオヤジは、なんで赤パン(赤いパンツ)
を履いているんだろう。意図がよくわからない。確かに目立つこと
は目立つけど、日本の女性には好まれそうなキャラじゃないね……
相対的に皆さん、暑苦しいタイプ。タイだから仕方ないのか(笑)。

何はともあれ、この勝負『バトル7』の圧勝です!
くれぐれもタイトルを間違えて見てしまわないように……。



ジェネオン エンタテインメント
マッハ ! プレミアム・エディション

ガッツ

水野晴郎さんが倒れて重体、というニュースを見て、
急遽予定した内容を変更、「1月14日よりOK牧場ロードショー」
(チラシの宣伝文句より)されているガッツ石松主演最新作
『ガッツ伝説 愛しのピット・ブル』の話をしよう。

なぜって、この二人、実は浅からぬ因縁がある。
ガッツ石松が唯一、監督・主演・脚本を兼ねて製作した意欲作
『カンバック』(1990年)の公開当時、映画評論家として
横綱級の知名度があった水野晴郎さんに映画を酷評され、
怒ったガッツさんは、テレビ番組中に食ってかかった。
「これまでのボクシング映画は、みんな嘘っぱち。
本当のボクシングはそんなもんじゃない。それが
ボクシングの素人にわかるのか。釈明しろ!」
みたいな大人げない内容だった。水野さんも負けてはいない。
「私は映画評論家として、よくないと思うものを皆さんに
オススメするわけにはいきません」
「何を!」とガッツさん、険悪なムードで収拾がつかないまま
テレビ番組はドタバタと終了、となってしまったのである!



松竹
カンバック
これには見ている方が驚いた!
それ以降、ガッツさんは俳優に専念、映画を一度も製作していない。

実はそれから数年後、私はガッツさんにも、水野さんにもお会いして
話をしたことがある。もちろん、あまり深くは聞かなかった(笑)
が、二人ともタイプは違えど、とても素敵な人たちだった。

実際、その後、ウチの娘が生まれた時、あまりにガッツさんに顔が
似ていた(後で知ったのだが、生まれたばかりの赤ちゃんは、みんな
ガッツ石松さんに似ているらしい。そういう話を出産した人に何度も
聞いたことがある!)こともあり、ガッツさんには思い入れがある。

そして一昨年、ガッツさんが水野晴郎さんの『シベリア超特急5』に
出演しているのを見て、「和解したんだな」と人知れず嬉しかった。
ちょうど、ガッツさんが「OK牧場?」で再び脚光を浴び始めていた
頃だ。それから、『ガッツ伝説』が40万部のベストセラーとなった。



ポニーキャニオン
シベリア超特急5~義経の怨霊、超特急に舞う~



ガッツ石松&鈴木佑季, EXCITING編集部
最驚!ガッツ伝説



ガッツファミリー, エキサイティング編集部
最驚!ガッツ伝説2

しかし、それ以前に、ガッツさんの俳優としての実績はものすごい。
リドリー・スコットとスピルバーグ監督作品の両方に出ているのは
日本人では他にいない、というのがガッツさんの自慢だ。それで、
「人情ドラマの最高傑作」という明らかな誇大宣伝に騙されて、
最新作『愛しのピット・ブル』を見てしまった、というわけだ。

確かに人情喜劇であることは間違いない。ただ、『ガッツ伝説』と
タイトルに謳うからには、徹底的に大ボケをかましてほしかった。
これじゃ全然、笑えない。元ボクサーのしがないペット屋のシャイ
なオヤジが、シングルマザーの麻生祐未に不器用な恋をするという、
今時TVドラマでもやりそうにない、ありきたりな設定は古臭過ぎ。
舞台での実績がある野伏翔監督は、なぜ『ガッツ伝説』という本が
こんなに受けたのか、まったくわかってなかったんだろうと思う。
どうせコケるなら、せめて「OK牧場?」の台詞に失笑が起こる
ぐらいボケまくって、大暴れしてほしかったなあ……総合評価★
(ガッツさん、ゴメンね……水野さん同様、許して下さい~笑!)
新宿トーアにて、まだ公開中、と思います(汗)。

ちなみに、「OK牧場?」のネタ元、『OK牧場の決闘』(1956年)
は、水野晴郎さんの水曜ロードショーでも視聴率25%を稼いだ往年の
大ヒット作。何度も映画化されている西部開拓史上最も有名な実話を
基に、実際の決闘シーンの一人一人の動きを忠実に再現したという
ジョン・スタージェス監督の決闘三部作の一つ。フランキー・レイン
とディミトリ・ティオムキン(50~60年代の映画音楽のキング)の
『ローハイド』コンビによる有名な主題歌、バート・ランカスター、
カーク・ダグラスという二大スターの競演でも話題になった名作だ。
ジョン・スタージェス監督がワイアット・アープとドク・ホリデイの
その後を描いた続編『墓石と決闘』(1967年)も、出演者は異なるが
(ジェームズ・ガーナーのガンさばきは見事ですよ)佳作だった。
また、後者の音楽は巨匠ジェリー・ゴールドスミスの初期の傑作。
スリリングでキレのある音は、もう往年の名作とは違って今風です。
どちらも、総合評価★★★★(……今、見ると★★★ぐらいかな?)



パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン
OK牧場の決斗【字幕版】



アミューズソフトエンタテインメント
墓石と決闘

ケビン・コスナーとデニス・クエイドの『ワイアット・アープ』(94)
や、カート・ラッセルとバル・キルマーの『トゥームストーン』(93)
は、『OK牧場の決闘』と『墓石と決闘』の話の前後まで描いた大作
(前者)とアクション映画(後者)で、比べて見ると面白いですよ。

ジョン・フォード監督、ヘンリー・フォンダ主演の名画『荒野の決闘』
(46)も同じ話だけど、詳しく違いを述べていくとキリがないので、
今日はこのへんまでにしておこう。とにかく全部見てください(笑)。
でないと、いつか話が合わなくなりますから……。

『ガッツ伝説』との対決?……まだ言わせたいんですか?(笑)
元ネタは偉大だったということです。

水野さん、意識は回復したそうですが、くれぐれも無理はなさらぬように……。

青空


同じキーワードを含むタイトルの映画が同時期に公開されるという
現象は、昔からよくある。『四谷怪談』や『エンテベ』の企画等、
数え上げればキリがないだろう。主な理由として考えられるのは、

1、一方が他方の話題作を意識して誤解を招きかねない題名を
 あえて付ける場合、
2、対抗馬をつくることで話題性の相乗効果を狙う場合、
 の二通りがある。

似たような話の映画が同時期に公開されることが多いのも同様。
たいがい、おこぼれ狙いの映画の方が慌てて先んじて公開され、
本命はじっくり後からドンとくる。もちろん、

3、たまたま似ちゃった、

なんてこともあるだろうけど、それでは紛らわしくなるばかりで、
お互い迷惑な話。むしろ、話題作りのために恣意的に仕掛けられる
ケースの方が多いだろう。2005年11月公開の『トンケの蒼い空』
(全国順次公開なので、これから公開される地方劇場もある)と、
同じく12月公開の『アメノナカノ青空』(こちらも地方によっては
これからだったり、東京では渋谷シネクイントで明日まで!)も、
どちらも若手イケメン韓流スターが主演の韓国映画とあって、
極めて紛らわしいが、さて今回のケースでは、上述のどれに
当てハマるのか?

その判断は、以下を読んでからにしていただくとして、
とりあえず内容的に「どっちが面白かったか」のみ、
完全ネタバレありで話そうと思うので、未見の方はご注意を!
(……もう、公開が終了してる地域もあるので、いいよね?)

まず、先に公開された『トンケの蒼い空』は、『友へ チング』が
韓国映画史上最高のヒットとなったクァク・キョンテク監督作で、
注目は昨秋評判になった『私の頭の中の消しゴム』で人気上昇中の
若手実力派韓流スター、チョン・ウソン主演最新作として相次いで
公開された点。そんな彼が初の汚れ役に挑戦した珠玉の青春映画、
というのがこの映画のウリ(宣伝文句)なのだが、「珠玉」って
部分を除けば、確かに主人公は小汚く、アオ臭い話だった!(笑)

原題は『MUTT BOY』で、「蒼い空」は単なるイメージ?
……それより何より彼が劇中ズーッと壊れたクビ振り人形みたい
にフニャフニャ喋っているのが、気になって、気になって……
まるで、昔の田原俊彦と『太陽にほえろ!』のボン刑事を足して
2で割った感じ。チョン・ウソンの映画を見るのは、実はこれが
最初だったので、それが演技だとは思いつつも、いい年齢こいて
父親と二人暮らしで目的もなくフラフラしてるボンボンが偉そう
に首を横振り運動させながら喋る姿は、どうしても好きになれず
……とってもバカに見えた……純真にも見えたけど。それはいい
としても問題は、そんな馬鹿キャラに最後まで成長が見られない
こと。少年時代から因縁のあった地元のワルに1対1で殴り勝ち、
メデタシ、メデタシという、何ともマッチョな結論なのだ……!
これにて大人として父親に認められた、とでも言わんばかり。

ただ、この父親がとってもいいんだな。優秀なジモティ刑事で、
常にバカ息子を愛情深く見守っている。そんな父親の愛情が、
やっとラストでバカ息子に伝わる、というのが話の唯一の救い。
まあ、ちょっとは成長があったってことか(笑)……総合評価★★


対する『アメノナカノ青空』は、2003年に韓国で話題となり、
一部のファンが待ちに待って「お蔵入り」寸前から復活公開を
果たした感動作。原題は「…ing」で、こちらも「青空」とは
何ら関係ない。どちらも日本人的なイメージってことだろうか。

ポスト「微笑みの貴公子」的な爽やかさが魅力の韓流スター、
キム・レウォンが昨年末に来日した時は、さすがに3年前の映画
撮影時より精悍になっていたが、爽やかなスマイルはおんなじ。
彼が学生カメラマンに扮し、内気で病弱な主人公ミナ(『箪笥』
でブレイクしたイム・スジョン)をナンパする出会いのシーンは
爽やかなテンポながら「わざとらしく」もあり、「どうなの?」
って思ってたら、わざと「わざとらしく」していたことが後半、
わかってくる。それは、ミナの母親が自分自身と、いつ死ぬかも
知れない娘のために、最初で最後の恋の楽しい思い出とその写真
を撮っておこうと、学生カメラマンを雇っていたからだったのだ!
しかし、そんな内情まで知らされてなかったキム・レウォンは、
本気でミナのことが好きになってしまい……もう、その後の展開には
観念して号泣するしかない(笑)。

基本的には、シャーリーズ・セロンが自分の短い残りの人生を
思い出のあるものに、と行動する『スウィート・ノベンバー』
(これもエンヤの主題歌「オンリータイム」と相まってゲロ泣き
の映画でした……総合評価★★★★)と同じ清々しい感動が残る
ハートウォーミングなドラマなのだが、この映画は母親の気持ち
(ここでもなぜか『トンケの蒼い空』と同じく親子二人暮らし)
が物語を動かしている、という二重構造によって難病もののラブ
ストーリーにありがちだったアオ臭さが完全に消し飛んでいる!
見事な脚本、演出だ。この監督は『子猫をお願い』の女性脚本家
イ・オニで、これが監督デビュー作。しかも、撮影当時まだ28歳
だったというから、なんともコシャクで老練な監督だ。拍手!!
……総合評価★★★★

というわけで、「似てる題名新作対決1」の勝負は、
もう言うまでもないね(笑)。



ワーナー・ホーム・ビデオ
スウィート・ノベンバー 特別版
ザ・コーポレーション堀江社長絶命 (某夕刊紙一面の大見出し)
……ビックリしたなあ、もう!
知らない人が見たらホリエモンが死んだのかと思っちゃうよね?
(ホリエモンは年下なので、あえて、そう呼ばさせていただく)

ホリエモン逮捕のニュースは、他の重要なニュースをすべて
ブッ飛ばしてしまった。これには別の意味があるかもしれない。
それは後述するとして、個人的には誰かが逮捕されたニュースを見て、
こんなに「かわいそうだ」と思ったことはない。

物事には常に「表と裏」の二面性がある。
見方によって二種類の考え方が常にできる、ということだ。

表面的には、ホリエモン逮捕は最近流行の株買収により会社を大きく
していく手法に警鐘を鳴らしている、というホリエモンを完全に犯罪
者として扱うマスコミの論調。特に、ホリエモンがプロ野球球団買収
に名乗りを挙げて以来、彼のことを目の敵にしている某新聞社系列の
テレビ局などは「それ見たことか」と、嬉々としてホリエモン非難の
報道を繰り返し、誠に見苦しい。特に「これが報道でござい」って顔
して、端っからホリエモンを問題児扱いするような質問ばかりしてた
オバサン・キャスターと、得意気なヒゲづらの怪しい記者の二人は、
某独裁オーナーの傀儡だったのか、と疑ってしまいたくなるほどだ。

一方、その裏には多くの人が抱く「出る杭は打たれる」の格言通り、
企業買収を繰り返す会社拡大手法に対する「見せしめ」ではないか、
という感覚的感情論もある。それが事実かどうかは別として、意外と
そうした国民の直感は、遠からず的を射ていることが多い。

実際、政財官の思惑が一致した人たちによる好ましくない力が強力に
作用していたであろうことは、容易に想像できる。ここからは私見。

このスピード逮捕劇は、誰の誰に対する「見せしめ」だったのか、
またはこのニュースによって誰が一番得をするのか、それを考えれば
大筋のシナリオは読めてくる。普通に考えると、財界の一部の経営者
たちによる、企業買収を繰り返す新興経営者やフィクサー的ファンド
運営者たちへの警告と見せしめ、ということになるが、それだけでは
メリットが少ない。しかし、そこにホリエモン擁立の小泉責任を問う
声が加わってくると、胡散臭くなってくる。抵抗勢力と呼ばれた小泉
憎しのジイサマたちの顔が思い浮かんでくるからだ。しかも、彼らが
最も癒着していた国土交通省と金づるだった土建屋たちが、今まさに
マンション建築偽装問題で追い詰められようとしていた。そうなると
いつ、彼らの口から責任所在の火の粉が自分のところまで飛んでくる
かもしれない、という瀬戸際でヒヤヒヤしていた政治家や官僚もいた
だろう。つまり、ホリエモン逮捕を今、仕掛けることで最も得をした
のは、国民や野党の目がそちらに向かわせることで、マンション偽装
問題追及のムードに水を差してウヤムヤにしたい政官の大物、と見る
こともできる。そんなカラクリさえ、ホリエモン逮捕の影に見える。

マンション偽装問題の根は、拝金主義の経済性論理に他ならない。
そんな企業の経済性論理が世の中(特に米国)を支配していることに
疑問を呈し、数々の実例を挙げて糾弾しているのが、現在公開中の
カナダ製長編ドキュメンタリー映画『ザ・コーポレーション』だ。
経営学の神様、ピーター・ドラッカー氏をはじめ、『華氏911』の
マイケル・ムーア監督他、多くの著名批評家たちも出演していること
で話題となり、アメリカでも単館系でロングランのヒットを記録した
『ザ・コーポレーション』は、問題意識のない人には2時間を超える
上映時間が辛いかもしれないが、興味深い事実を次々提示している。

例えば、カナダや欧州各国では、米国産の牛乳の輸入を一切禁止して
いるらしい。米国の畜産業者たちが生産性(経済性)を上げるため、
牛に成長促進剤を投与し、その結果、有害物質が米国産牛乳から検出
されたからだという。日本も米国の経済性論理の前に屈して牛肉輸入
を再開した直後、経済性とは対極にある問題で再び輸入を禁止した。
いまだ米国政府は、業者の経済性を優先させる態度を翻していない。

ホリエモン逮捕の影響でフッ飛んでしまった重大なニュースの数々を
この映画を見て、もう一度思い返してほしい(……総合評価★★★)

先日、米国では拉致被害者の横田めぐみさんのドキュメンタリー映画
が上映され、「初めて知った」という人から大反響があったらしい。
しかし、なんで日本人がこれを作らなかったのか、大いに不満だが、
こうした硬派のドキュメンタリー映画が一般的に注目されるキッカケ
つくったマイケル・ムーア監督にも、とりあえず拍手を贈りたい。
なぜ、世界中で米国だけ銃による殺傷事件数がケタ違いに多いのか、
それを突撃アポなし取材で全米ライフル協会元会長のチャールトン・
ヘストンまで引っ張り出して問題提起した『ボーリング・フォー・コ
ロンバイン』(2003年)の功績は、映画の枠を超え社会的意義にまで
及ぶものだ。ドキュメンタリーを一般大衆レベルの話題にまで広げた
という意味でも、まさに価値ある名作だった(……総合評価★★★★)



ジェネオン エンタテインメント
ボウリング・フォー・コロンバイン



ジェネオン エンタテインメント
ボウリング・フォー・コロンバイン マイケル・ムーア アポなしBOX



ジェネオン エンタテインメント
華氏 911 コレクターズ・エディション



ジェネオン エンタテインメント
マイケル・ムーア ツインパック 「華氏 911」×「ボーリング・フォー・コロバイン」 (初回限定生産)
東京ゾンビポスター東京のど真ん中、処分に困った粗大ゴミや死体、産業廃棄物で
できたゴミの山が黒く高くそびえ立っている。「黒富士」
と呼ばれる、現代の日本の「終末的無倫理感」の象徴だ。

その発想と映像だけで、半端でチープなB級ホラーじゃない
とわかる『東京ゾンビ』(2005年12月13日より全国順次公開
なので、まだギリギリ公開中の劇場も少なくないだろう)は、
とんでもないブラックコメディだけど、ある意味では日本初の
正統派ゾンビ映画とも言える、快(怪?)作。

実際、この映画に出てくるゾンビは、1、動きが極端に遅く、
2、生きてる人より遥かに大人数で、3、生きた人のみ襲い、
4、ゾンビに嚙まれた人はゾンビになって増殖し続ける、

などの点において、本家ジョージ・A・ロメロ監督が創造した
ゾンビ(生きる屍)そのものの終末的世界感と暗黙のルール、
そして、全く同様のメイクと動きがきちんと踏襲されている。



ハピネット・ピクチャーズ
ゾンビ ― ドーン・オブ・ザ・デッド



ハピネット・ピクチャーズ
ドーン・オブ・ザ・デッド~ゾンビ:ディレクターズ・カット・エディション~

これを単なるパロディ映画として片づけたくないのは、
本家ゾンビ映画と同様のテーマ性と世界観、そして、
本家以上とも思える訴求力と面白さがあるからだ。

とはいえ、この手の映画を2005年公開日本映画ベスト5の4位(!)
に入れてしまうことになろうとは、夢にも思わなかった……。他に
これより面白いと思える映画が少なかったってことなんだけど、
見た映画の半数以上が及第点にも達しないというレベルの日本映画
において、これぐらい面白ければ及第点を付けられると断言できる
「なかなかよくできた娯楽映画」だと思う(……総合評価★★★、
本当はもっと評価してあげてもいいかもしれない……)

その日も仕事時間中、柔術の練習に励んでいた主人公の二人
(浅野忠信、哀川翔)が、勢いで殺してしまった上司の死体を
「仕方ねえなあ」と何の迷いもなく、「黒富士」に捨てに来る
と、同じような輩が結構、いるわ、いるわ、そこら中で殺人
(なかには姑を生き埋めに来た若妻も……)やら死体処理が
普通に行われている、倫理観もへったくれもない世界観。

決して、良い子の皆さんに見せてはいけません!
精神年齢が子供の大人にも見せてはいけません!

案の定、「黒富士」からは何の脈絡もなく死体が蘇り、
生きてる人間を次々に襲っていく。というより、ほとんど
主人公たち以外は、すでにゾンビ化している、という状況。

ついに柔術の師匠、ハゲ頭の哀川翔もオバさんゾンビに嚙まれ、
自ら河に飛び込む。カナヅチの相棒、浅野忠信は救いにいけない
……というトボけた二人の初共演が、また実にいいコンビなのだ。

「本当に強くなりたいならロシアに行って武者修行を積むんだ」
という哀川翔に、「どうせ行くならアメリカがいいんだけど…」
と、ボケる浅野忠信。「バカ!」と、一喝する哀川翔。
「本当に強い奴はロシアにゴロゴロいるんだ!」…… みたいな、
冗談とも真実とも取れない会話が延々続く、そのセンス。

この脚本を書いたのは、これが監督デビュー作となる佐藤佐吉
という人。なんと、大好きなテレビ番組『オー!マイキー』
(テレビ東京系、会話のみで動かないマネキン人形しか出てこない
ホームドラマの傑作!……よくわからない、ですか?)の脚本家
だった!……それで、納得。道理で「病み付き」になるわけだ。
しかも、『キル・ビル』やら『ローレライ』やら、相当の映画に
出演もしている(!)という、変わった経歴の人らしい。

この人を日本インターネット映画大賞の監督賞と新人賞に入れようか
と迷ったぐらい。結果的には両方とも『隣人13号』の井上靖雄監督に
入れてしまったんだけど(ゴメンなさい!)、もう忘れませんよ、
この名前。要注目の監督さんになるでしょう!

ふーっ、やっと紹介できました、この映画……(笑)。
まだ年末から1月にかけて公開された映画で、見たのに紹介してない
作品が何本かあるんですよねえ。また書く時間がなくてオクラ入り
なんてことになると申し訳ないので、今月中に書きたいと思っている
作品一覧として事前に「総合評価」だけ、忘れないうちに書き留めて
おきます……このうち、何本書けることやら……(笑)。

『ザ・コーポレーション』★★★(カナダのドキュメンタリー大作)
『非日常的な彼女』★★★(ベタベタ韓流感動コメディ)
『アメノナカノ青空』★★★★(韓流爽やか系感動ドラマ)
『あぶない奴ら』★★★★(ベタベタ韓流アクションコメディ)
『七人のマッハ!!!!!!!』★(タイ式アクション)
『バトル7』★★★(同上……以上、12月公開)
『るにん』★★★(松坂慶子主演の時代もの)
『ガッツ伝説 愛しのピット・ブル』★(コメディ?)
『プルーフ・オブ・マイ・ライフ』★★★(シカゴの現代劇)
『プライドと偏見』★★★(英国式文芸メロドラマ)
『ギミー・ヘブン』★★(江口洋介、松田龍平主演の現代劇)
『スパイモンキー』(眠っちゃったので、よくわからない)
『スパングリッシュ』★★★★(カリフォルニアの現代劇)
『ブラックキス』★★★(予測不能のサイコサスペンス)
『ミラーマン』★★(TVヒーローもののリメイク)
『フライトプラン』★★★(サスペンスアクション)
『白バラの祈り』★★★(ドイツの感動実話……以上、1月中公開)

ひえ~っ、これじゃ一日一本ずつ書いてっても無理!
どっから手をつけましょうか……?
ご希望があれば、是非コメントください!